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BASEL WORLD 2018
Photo Takehiro Hiramatsu(digni)
Text Junko Chiba
唯一無二のデザインで勝負するか、斬新な試みの先駆者になるか、、、
高級時計市場が新しい時代に向けて胎動している。それは時計業界の二大見本市……ジュネーブで開催されるSIHHと、バーゼルを舞台とするバーゼルワールドの近年の傾向からも分かる。SIHHが高級ブランドを中心に勢いを増す一方で、 今年のバーゼルワールドは「量より質を優先」し、方向転換を図った。多数のブランドが出展を取り止め、大幅に規模が縮小されるなどの情報も事前にあったが、実際は意欲的な新作が多く発表され、例年にない盛り上がりを見せたという。とはいえ、時代の変化は否めないところだろう。
 では、このような状況の中で多くの人は何に魅了されるのか。独立時計師が“神の手"で生み出す複雑にして精緻(せいち)な“時の宇宙"のように思うが、それだけではない。いろいろ語りたがるものの、結局は誰もが一目見て「おっ、○○○だね」と分かるもの、つまりブランドアイデンティティが表現されたアイコンウォッチを好むのではないだろうか。世間には広く知られていないけれど、他人とは違う高品質な時計を所有したいという気持ちがある一方で、心のどこかに承認欲求のようなものがあって、それが満たされないと“愛好家心"がくすぐられないのだろう。
 例えばラウンド型の古典的な高級時計ならパテック フィリップの「カラトラバ」、八角形のベゼルならオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」、クッション型のケースならパネライの「ラジオミール」といった具合だ。他に男なら誰もが1本は欲しいロレックスの「オイスターパーペチュアル」、美しく洗練されたデザインが普遍の魅力となっているカルティエの「タンク」、そぎ落とされたドイツデザインの質実剛健さが横溢(おういつ)するA.ランゲ&ゾーネの「ランゲ1」なども、似たような時計がひしめく市場ですでに市民権を得た感がある。「似たものより誰もが知っているブランドのアイコンウォッチがいい」と思うのが人情というもの。だから強いのだ。
 アイコンウォッチとなると老舗ブランドに“一日の長"があるだけに新興ブランドの入り込める余地は小さい。その中でも成功したと言えるのは、特異なデザインで群を抜くフランク ミュラーと、独自の個性を強烈に打ち出したリシャール・ミルくらいのものだろう。
 そういったことを考えると、時計は精度を追求する世界とは異なる次元で、新たな価値を求められている気がする。つまり、一目でそれと分かるデザイン。アイコンウォッチを持てるかどうかが、新旧乱立する時計ブランドの生き残りの鍵を握っているわけだ。
 ブランド名だけで勝負できる時代でもない。求められるのは、装う人の存在感、感性をも映す時計なのだ。ブランドは今後、唯一無二のデザインで勝負するか、斬新な試みの先駆者になるか、が分かれ道になりそうな気配濃厚である。アイコンウォッチに成り得る時計の開発に向けて、新旧ブランド入り乱れての模索がおもしろい様相を呈してきた。
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