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 客を差し置き、自らが主役を買って出ると、大抵行き過ぎたパフォーマンスに終始することになり、その端的な例が、過剰な〈走り〉。舞台にたとえるなら、過ぎたウケ狙い。
 五十有余年の料理人歴を誇る、割烹の主人いわく「最近の客は楽だ。何を出しても美味しいを連発し、記念撮影してくれる」。
 過ぎた料理人賛美は、こうして〈旬〉をも狂わせることになる。プロもアマも、自らのブログで店を料理を、料理人を絶賛することに終始する。それを読んで料理人はさらに発奮する。
 深い味わいなどはさて置き、目立つのはいち早く旬を先取りすること。かくして大幅なフライングが横行する羽目になる。
 一事が万事。客と料理人が互いに媚を売り続けた結果、同じような店がはびこる。店の名には〈さん〉を付け、料理人を〈ちゃん〉付けで呼ぶ。敬意も謙譲の念もなく、まるで友達同士のような関係を築き、緊張感を失い、いつしか割烹のカウンターは、驚かせ、笑い合うだけの場になってしまった。バラエティー番組のお笑い芸人が、常に新ネタを求められるのと同じく、料理人たちもまた、常に客を驚かせるネタ探しに躍起になる。その結果が〈フライング旬〉。   そもそも〈走り〉ですら日本人の感覚にはそぐわない。物の哀れを尊ぶ民族には〈名残〉こそがふさわしい。
 例えば春の山菜。長い冬を越し、ようやく春が芽吹き、人の心を温めてくれた山菜が消えゆくのを惜しんで、コゴミやウルイを舌に載せて目を細める。そんな哀惜の念などまるで解せない客は、新奇で派手な趣向にしか反応しない。
 食材としての野菜が、近年注目を集めるようになったことは、喜ばしい限りだが、それとて〈旬〉にはさほど言及されない。耳目を集めるのは野菜の作り手や、畑に入り込んでナマ野菜をかじる料理人のみ。
 
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