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 日本旅館の〈食〉。ざっと、その歴史をたどってみる。
 古くは、街道を行き交う旅人のための旅は たご籠から始まった。武士たちの高級旅籠ならいざ知らず、庶民向けのそれで供されたのは、空腹を満たせばいい、という程度の代物。一夜の寝所を提供することが、主たる目的であって、〈食〉は付け足しのようなものだった。
 時代は下って、旅がただ移動するだけではなく、温泉や観光など、物見遊山の要素が強くなるに伴って、旅籠の有り様も様変わりし始める。
 慎つつましやかな普段の暮らしを離れ、生涯に、そう何度も繰り返すことのない旅だから、旅の宿ならではの贅沢をしたい。常の暮らしには滅多に出合わないご馳ち 走そうを食べたい、という欲求が高まることとなる。
 今となっては笑い話だが、かつて山深き秘境の宿であっても、必ずマグロのお造りが供された。のみならず、海え老びの天てん麩ぷ 羅ら、牛のステーキなど、およそ考え得るご馳走が、旅館の夕ゆう餉げに並んだ。
 秘湯とも呼ぶべき露天風呂に浸かって、薄っぺらいタオルで、汗を拭ふきながら部屋に戻ると、座敷机の上に置ききれないほどの料理が、すでにずらりと並んでいる。
 やがて頃合いを見計らって、仲居さんが現れ、ビール瓶の王冠をコンコンと叩たたいて、栓を開ける。コップを差し出して、まずは一杯。喉のどを鳴らして一気飲み。さてさて、何から食べようか、と箸を取って、膳の上を眺め回す。たとえ冷めていても、これを贅沢とした時代もあったのだ。
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