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伊勢海老の雑煮椀
伊勢海老のみそは、甘くほろ苦い。
甘さは豊潤。ほろ苦さは椀に気品を与える。
椀味不只淡 第8回
文・神田裕行(元麻布「かんだ」店主)
Photo Masahiro Goda
神田裕行の椀五十選 第8回
 年が改まり、まず最初に頂く朝ご飯は、ご近所の土間でついた餅の雑煮だった。みそかの朝、冬空に勢いよく上がるせいろの湯気に集まるように、近所の男たちが代わる代わる杵を振るい、ほっかむりをした女たちが水を差した。初めて「お前がついてみろ」と言われた杵は思ったより重く、へっぴり腰だと笑われたが、何だか大人の男の仲間入りをしたような晴れがましい思いをした。故郷では女たちがこれを丸くまとめた丸餅にする。“お鏡"と呼ばれるお供え用の餅までたくさん作るため、成人の日ぐらいまでは毎日朝ご飯に三つ四つと餅を入れた雑煮を食べていたと思うが、今にしても思うのは、杵つきの餅はよく伸びて重たくなく、何個でも何日でも食べられる味だった。
 料理屋の雑煮椀は、めでたさを強調するものなので、実家のように大根と餅のみそ仕立てというわけにはいかない。華やかに伊勢海老で長寿を、からすみで子孫繁栄を願う椀としよう。
 日本料理は縁起を担ぐ語呂合わせが大好きで、床の間に焼いた鯛を飾り「目で鯛」とか、数の子で「子沢山」、昆布巻きで「喜ぶ」など、枚挙にいとまもない。
 しかし、年に一度の正月であれば語呂合わせも楽しく、古人のしゃれっ気をほほえましくも思う。
 伊勢海老は小ぶりのものを使い、吉野葛を打ってさゆでゆるやかに火を入れる。大きいものは固くなりすぎるし、火が強くてもやはり駄目だ。表現したいのは“雅味"であり、野暮な固さにしたくない。かみしめてじわりと甘さのにじむ火入れが大事である。
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