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食語の心 第28回
作家 柏井壽
 たとえば僕の子供のころ。つまりは今から半世紀ほど前のこと。一日三度、必ず母親が料理を作った。
 朝はご飯と味噌汁。そこに目玉焼きか、出汁巻き卵が付いた。焼き海苔、漬物が添えられ、これでご飯を二杯食べて学校に向かうのが常だった。もちろん母親お手製の弁当を携えて。
 夕方、学校から戻ると、母親は夕食の支度をしている。それを横からのぞき込み、時には手伝い、たいていは邪魔をした。
 当たり前のことだが、朝も昼も夜も、そこに既製品の入る余地はなかった。ようやく冷蔵庫が普及し始めた時代。冷凍庫など夢のまた夢だったから、当然のことながら冷凍食品など見たこともなかった。
お米をといでご飯を炊く。無論のこと、電気釜などというものはなく、ガスコンロに載せた羽釜で炊いていた。
「はじめチョロチョロ なかパッパ 赤子泣いても蓋取るな」
 節をつけて、必ずこんな歌を歌いながら炊いていた。
 その合間に出汁をひいて、味噌を溶かして味噌汁を作る。いとも容易く作るのを横で見ていて、料理の愉しさを知った。
 それから半世紀。料理の環境がこれほど激変するとは思ってもみなかった。
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