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食語の心 第46 回
作家 柏井壽
行事と食
本来は家庭で作るものだった「おせち料理」は、今や店で売っているものとなり、当初は主にデパートの地下で売っていたが、今では紅葉シーズンが終わるや否や、コンビニの店頭にも「おせち予約受け付け中」のポスターが貼られる時代。
 続くは「恵方巻き」だ。これもデパートとコンビニ、街の鮨(すし)屋も参戦して商戦が繰り広げられる。とりわけコンビニは恵方巻き発祥と言える存在だから、力の入れようも半端なものではなく、早いところでは年末から「恵方巻き予約受け付け中」の掲示が目立ち始める。
 洋風、中華風など、重箱にさえ詰めれば何でもおせち料理と呼ばれ、形骸化していることは否めないが、それでもおせち料理は節会の行事食というルーツに基づくものであり、残していくべき食文化であることは間違いない。
 一方で恵方巻きは、ただの商魂が生み出したものでしかなく、これをさも行事食のようにして喧伝(けんでん)するのはいかがなものか。いわれも根拠もない食を、メディアの情報操作に踊らされ、競って買い求めるのは滑稽でしかないのだが。
 恵方巻きのルーツは大阪の花街にあるというのが通説だ。太巻き寿司(ずし)を花街の遊女に丸かぶりさせ、それを見ながら、好色な旦那たちが酒を飲むという、猥雑(わいざつ)な遊びがあった。
 売り上げの伸び悩みを憂えていた海苔(のり)問屋の主人が、それをヒントにして、節分と絡め、丸かぶり寿司を売り出したのは、大正の終わりごろから昭和の初めだという。難波商人らしい発想で、大阪の一部では行事食として浸透していたようだ。
 時代は下り、1998年。大手コンビニがこれを恵方巻きと名付けたところ、予想を超えるヒット商品になったのだ。
 つまり恵方巻きなるものは、まだ誕生から20年も経っていない食なのである。しかるにメディアは、節分といえば恵方巻きを食べなければ幸運が舞い込まない、と大いに騒ぎ立てる。あたかもそれが、日本古来の伝統行事であるかのように表現する。
 日本という国では、メディアの威力は絶大なものがあり、大阪の色町を発祥とする猥雑な風習が、一気に全国各地に広まってしまう。
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