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食語の心 第52回
作家 柏井壽
カリスマ料理人
ことは料理人に限ったことではない。人は甘やかされれば、甘やかされるほど思い上がり、精進を怠るようになる。さらには傲慢(ごうまん)になる。
 アスリートたちが典型である。スポーツの世界で輝かしい成績を残したアスリートたちの多くは、後進の指導に当たったり、斯界(しかい)の発展に寄与したりするが、そのうちの何人かは、薬物におぼれたり、暴力事件を起こしたりして、ニュースになることがある。
 大抵は記者会見などで、人気におぼれた、とか、おだてられていい気になっていた、などと反省の弁を口にする。
 子どもの育て方で、「ほめて育てる」という方法があると聞くが、それとは次元が違う。
 無理もない、と言えばその通りであって、アスリートたちは子どもの頃から、ある種のプロフェッショナルとして育てられ、どこか浮世離れしたなかで大きくなってゆく。
 順調に成長し、斯界で第一人者として認められるに至って、早々に人生の目的を果たしてしまったかのような錯覚に陥るのも無理からぬこと。
 それと比較するのもいかがなものかと思わぬでもないが、若くして修業生活に入った料理人とアスリートは共通点も少なくない。その最たるものが「称賛慣れ」だ。
 好成績をおさめたアスリートたちと同じく、いや、それ以上に料理人たちは、称賛の嵐を浴びることがしばしばある。プロのライターから、素人のブロガーまで、ほめ殺しかと思うほど、近頃は料理人をほめたたえる傾向にある。
 料理に対する真摯(しんし)な姿勢、料理を作るときの真剣な表情、そして出来上がった完璧な料理。どうやら、非の打ち所のない料理人が日本中にあふれているらしい。
 そんなにすごいのなら、一度行ってみようという食通客が店を訪ねる。
 何がどうすごいのか、よく分からないまま料理を食べ終えて、さてSNSに投稿するにあたって、思ったままを書くわけにはいかない。食通を自任している以上、「すごさを理解できない客」と思われたくないからだ。
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