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食語の心 第61回
作家 柏井壽
旅宿の味わい
旅行を趣味とする人は少なくない。趣味は食べ歩きだとする人も多い。SNSなどのプロフィールを見ると、多くの人々が、このいずれか、もしくは両方に当てはまるような気がする。食べることも旅も嫌いだという人は滅多に見かけない。
 となれば、旅先で美味(おい)しいものを食べることを至上の愉(たの)しみとする人は相当数存在するのではなかろうか。
 この際、日帰り旅は除外するとして、多くが泊まりがけで旅をするという前提に立って、その旅の夕食はどこで摂(と)るかといえば、旅好きの方々から聞いたところでは千差万別。
 宿は宿、食は食とばかりに、分けて考える人が増えてきたのは、泊食分離という流れが浸透してきた証しだろう。
 その一方で、やはり宿でゆっくり夕食を摂りたいと願う人も減ってはいないようだ。
 その地のお酒とともに、その地ならではの食をじっくりと味わい、眠くなればそのまま床に就けばいい。その安心感は何ものにも代え難い。オーベルジュを別にすれば、日本の旅館にしかないシステムだ。
 それを突き詰めたのが部屋食という方式で、客室で夕食を摂り、同じ部屋で座敷机を布団に換えるだけで、食事と就寝を同じ空間で行う。かつての日本旅館はそれを売り物にしてきたが、時代の流れはそれを良しとせず、食事室を別に設ける旅館が急速に増えてきた。
 前回例に挙げた「紅鮎(べにあゆ)」という琵琶湖畔の宿も同じくである。
温泉宿では部屋食に限ると願う旅人には部屋食を。食べる部屋と寝る部屋が同じなのは嫌だと思う客には食事室を。両方に対応するという宿の柔軟さは、他の旅館の規範となるべきだろうと思う。
 そしてひとり泊まりの僕はどうするかといえば、食事室での夕食をセレクトする。
 なぜなら、おひとりさま用の特等席が設(しつら)えられているからである。
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