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食語の心 第62回
作家 柏井壽
名宿の食
かつて日本旅館の夕餉(ゆうげ)といえば、膳や食卓の上に並びきらないほど、ぎっしりと料理を並べるのが当たり前だった。団体旅行全盛時のことである。
 馳走(ごちそう)の代表として、お造りと天ぷらは決して欠かすことができず、山の中の宿でもマグロの刺し身、冷めきっていても海老(えび)天の姿がないと幹事さんの面目丸つぶれ、という時代が長く続いた。
 時代は流れ、団体から家族、カップルへと客層が移り変わるとともに、料理も変化していった。
 地産地消、季節の味を謳(うた)い、一品ずつ料理を供するのが、高級宿のお決まりになった。
 どの宿も「経験豊かな料理長」の手による料理とホームページでも書いてはいるが、これまでは一度にご馳走を並べるのが当然だと思い込んでいた料理人が、そう急激に変われるはずもなく、多くの宿ではスタイルこそ変わったものの、中身は以前と似たり寄ったりだ。
 真の名宿と、ただの高級旅館とで雲泥の差が出るのが料理。それなりに見てくれのいい建築や設(しつら)えで誤魔化(ごまか)せても、一定の水準を保つ料理を出し続けるのは極めて難しい。
 例えば建築。一からつくらずとも、廃業した既存の施設を、手慣れたデザイナーに委ねれば、客の目を引く宿を容易(たやす)くつくれてしまう。そこに適当な小道具を配し、その土地らしい設えを施せば、今ふうの高級旅館が出来上がる。
 最近の流行(はやり)は、そこにプラスして、地元らしい体験やアクティビティーをプログラムすること。
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