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食語の心 第70回
作家 柏井壽
旅と食の素敵な関係3
久々のフランス旅で、どうしてもたしかめておきたかったことが、ふたつあった。
 ふたつとも食にまつわることだ。ひとつは海外での日本食、日本酒ブームがどれほど浸透しているのか、である。
 とあるグルメライターさんの言では、スペインやフランスをはじめ、現地の食通たちが日本食レストランに殺到し、どこも予約が取れない状況だ、ということだった。
 それにともなって日本酒もブームの様相を呈していて、日本食レストランだけでなく、スパニッシュやフレンチのレストラン、バルやビストロでも日本酒の吟醸酒が飲めるとも書いてあった。
 40年も前の、海外の日本食レストランといえば、和食なのか中華料理なのか、韓国料理なのか、判別不可能な料理で、間違っても、美味(おい)しいとは言えないものだった。
 それと比べるのも何だが、海外で本格的な和食を吟醸酒とともに味わえるとは隔世の感がある。なんとも愉(たの)しみなことではないか。
 今回の旅はフランスだけだが、どの都市でも真っ当なホテルに滞在するので、ホテルのコンシェルジュに聞けば、何らかの情報が得られるだろうと思っていた。
 結論から言うと、本格的な日本食や日本酒ブームというものには、たどり着けずじまいだった。
 モンテカルロ、ニース、マルセイユ、パリと、名の知れたホテルのコンシェルジュに尋ねたものの、ほぼゼロ回答だった。
「たしかに、日本で食べるのに負けず劣らずのカッポウがあるにはある。だがそれは、一部マニアの食通だけが食べに行くだけで、一般にはまったく浸透していない。わたしも行ったことがないんだよ」
 パリのホテルコンシェルジュの言葉だ。百聞は一見にしかず。見ると聞くでは大違い。幻だった。
 京都とよく似た構図だと気付いた。
「京都では料亭より割烹ですよね。京割烹は大ブームなんですよね」
 とりわけ東京の友人から、しばしば聞かされる言葉だ。
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